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大阪家庭裁判所 昭和38年(家)3804号 審判 1964年3月28日

申立人 北村ハナ(仮名)

被相続人 南田三郎(仮名)

主文

被相続人亡南田三郎の相続財産である別紙目録中

一、(1)乃至(5)の各物件を申立人に分与し、

二、(6)乃至(13)の各物件については、大阪府知事の許可あることを条件として、これを全部申立人に分与する。

理由

調査の結果によるとつぎの事情が認められる。

(1)  被相続人南田三郎は、南田一郎同たけの長男として出生し、父一郎が昭和八年三月二七日に死亡していたので、祖父にあたる前戸主南田吉助死亡(同八年八月五日)により家督相続をなし、南田家の戸主となつたが、同二三年九月一六日に死亡し、同人につき相続が開始した。が同人には相続人(母たけも同一七年一月一〇日に死亡)がいなかつたので、相続人不存在のため相続財産管理人が選任せられ、相続債権申出の公告、相続権主張の催告がなされ、同催告期間が満了したが相続人の申出はなかつた。

(2)  申立人は三郎の叔母(父一郎の妹)であるが、三郎が上記のように母たけを昭和一七年に失つて孤独の身となつたため、年少の同人の身の廻りを世話し南田家の家計を維持する必要もあつて、親族と協議の上、先ず当時独身でいた南田うめ(申立人の妹で三郎の叔母に当る)を実家である三郎の許に帰らせた。うめは、実家に戻つて後三郎と生活を共にし、病弱だつた三郎の身の廻りをはじめ家事万端を処理してきたが、うめ自身も元来病弱であつたため、南田家の家計の維持や家事の処理にも困難を来たしたので、同一八年頃寡婦であつた申立人も実家へもどり、三郎うめと同居して生活するに至つた。

(3)  三郎の身の廻りの世話や南田家の家事万端は、上記のように、うめが元気な間は、同人が主としてこれを担当していたが、うめが病気で弱つて以後殊に同二二年六月二二日同人死亡後は、もつぱら申立人がこれを処理してきたものである。ところで南田家の生活は、三郎が専門教育を受けながら病気のため就職しないで長期間にわたつて自宅療養をつづけてきたため、療養費その他で生活費もかさむ一方、約一町の所有田畑の大部分が小作地であつた関係上、余裕あるものではなかつた。そこで申立人は、小作田の管理に当るとともに、小作田のうち返還を受けた約二反を自作し、また内職などにも努め、南田家の中心となつてその家計を維持してきたものである。

(4)  三郎は、上記のように病気のため自宅療養をつづけなければならなかつたし、両親も兄弟もないところから、叔母であるうめや申立人を愛慕し、うめ生存中はうめを、うめ死亡後は申立人を、実の親のように頼り、うめや申立人も、また実の子に対するように片時も離れず三郎の身の廻りの世話や療養看護に努めてきたが、三郎は申立人らの療養看護の効なく同二三年九月一六日に死亡した。同人死亡に際しては、申立人が喪主となつてその葬儀を主宰し、また死亡後の法要等をつとめてきたし、今後も申立人において同人のみならず南田家の祖先の法要供養等をつづけるものである。

(5)  申立人と三郎との親族関係や共同生活の実情をよく知つている近隣の者も、近しい親族の者も、申立人と三郎とが実の親子のようにして生活してきたこと、申立人が親身になつて三郎の療養看護に努めたこと、申立人が文字通り南田家の中心として全財産を管理し家計を維持してきたことなどから、三郎の遺産は全部申立人に受け継がせるのが当然である、と考えている。

(6)  申立人は、三郎の死後も引きつづいてその相続財産である家屋に、三郎のいとこである南田松子の家族とともに居住して、別紙目録に記載の遺産を管理し、そのうち(7)の一畝七歩、(9)の七畝二八歩、(10)の四畝一二歩を自作し、その余の農地はA、B、C、D等に小作させている。なお申立人は、上記自作田の外、南田うめ名義の相続財産のうち門真下馬伏○○○○○○○○番の六畝二四歩と同所○○○○○○○番の八畝の一部約一畝一五歩を自作している。

上記認定の実情によつて明らかな申立人と被相続人三郎との特に親密な親族関係、生活状況、療養看護の実情からみて、申立人が、被相続人と生活を同じくしかつ療養看護に努めてきた者として、被相続人の特別縁故者に該当すること明らかである。よつて進んで分与すべき財産の程度について検討するに、すでに認定したように、三郎の相続財産が、すべて家督相続および遺産相続によつて取得した農地と家・屋敷等であつて、いわば南田家の家産とみるべきものであること、申立人が昭和一八年以降現在まで引きつづき実質的に南田家の一員として遺産である家屋に居住し、相続財産全部を管理し、その一部の農地を自作しその余を小作に出すなどして南田家の家計を維持してきたこと、三郎死亡による相続開始後も、引きつづき申立人において相続財産を管理し、三郎の葬祭を主宰し今後も三郎のみならず南田家の祖先の供養等をつづけるものであること、その他本件に現われた諸般の事情を考慮すると、申立人に被相続人三郎の相続財産の全部を分与するのが相当である。なお相続財産のうち農地については、この特別縁故者への相続財産分与が遺産分割でなく、したがつて農地法第三条第一号但書に該当しないことが明らかであるから、その所有権移転につき知事の許可を受けなければならない。

よつて本件申立を相当と認め主文のとおり審判する。

(家事審判官 西尾太郎)

別紙

目録

(1) 門真市大字下馬伏○○○番○

宅地 三七坪

(2) 同所 四一一番

家屋番号二二番

木造藁茸平屋建 建坪 二四坪九六

附属建物

木造瓦茸平家建 居宅 建坪 八坪四九

木造瓦葺平家建 倉庫 建坪 三坪四一

木造瓦葺平家建 物置 建坪 四坪三五

(3) 同所 ○○○番

宅地 四三坪

(4) 同所 字○○○○○○番

宅地 五九坪

(5) 同所 ○○○○○○○○○番

池沼 二畝六歩

(6) 同所 ○○○○○○番○

田 一反八畝一五歩

(7) 同所 ○○○○○○番○

畑 一畝七歩

(8) 同所 ○○○○○○番○

田 五畝二歩

(9) 同所 ○○○○○番

田 七畝二八歩

(10) 同所 ○○○○○○○○番

田 四畝一二歩

(11) 同所 ○○○○○○○○○○番

畑 三畝一五歩

(12) 同所 ○○○○○○○○○番<改行>○○○番<改行> 合併の○

田 一反九畝六歩(内畦畔二歩)

(13) 同所 ○○○○○○○○○番○

田 二畝歩

以上

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